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「……変わらぬな。いや、若返ったというべきか。以前魔物を討伐した際は、もっと妖艶なおなごだったものだが……」
東洋風の、趣のある造りのアズマ城。
その最奥、王の間で、国王アズマは鎮座していた。
「そなたは老いたの。妾のように転生の秘術のひとつも使えれば、あの頃の壮健さを取り戻せように……」
広々とした畳の間の中央で。
侍女が差し出した座布団の上に仁王立ちとなり、ヨハネはアズマに憎まれ口を叩いた。
「して、何の用だ?……こんな極東のつまらぬ国など、観光以外で訪れるには物足りないだろう。」
アズマは昔話などする気もなく、単刀直入に本題を問う。
それは、ヨハネとの長い付き合いの中で生まれた、ふたりの間の暗黙のルールのようなものだった。
『余計なことは言わない、訊かない。』
かつてアズマ国に強大な魔物が現れたとき、出生も素性も不明だったヨハネは、手を貸す代わりに若かりしアズマ王にそう告げたのである。
「この国の地下に眠る、鉱石が狙われておる。」
ヨハネも、問いの答えを飾ることなく告げた。
「鉱石……?」
「そなたらの間では『秘石』と呼んでおろう。『封魔石』のことじゃ。」
封魔石。
かつて魔物を討伐し、封印したヨハネとアズマ。
ヨハネの強大な魔力をもって、魔物を封印したのだが、たまたまこのアズマの地の『とある鉱石』は、魔力を増幅し、魔物を封じるのにこれ以上無い媒体となった。
「しかし……あの石は、魔力を増幅する、または魔物を封じる媒体となりうる……と言うだけではないか。防具の素材としては脆すぎるし、武器の素材にしては加工しづらい。呪術師や魔導師の間でしか価値を見いださない石であるぞ?」
アズマも、疑問に首を捻る。
そのような価値の高くない鉱石など、貿易でも手に入る。
「譲って欲しい」
その一言だけである程度の量の譲渡は約束される。
そんな石なのだ。
「疑問はそこじゃ。何故そのような石を狙うのか……しかも軍まで用いてのぅ……。」
ヨハネは、王の間をぐるぐると回りながら考え込む。
「……なんだと?」
そのヨハネの『ひとこと』に、アズマの目の色が変わる。
「軍……?」
ヨハネは、しまった、と頭を掻いたが、仕方ない……と口を開いた。
「アズマよ……この地は戦場になるぞ。」
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