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剣先から滴る返り血。
数名、破れかぶれで襲ってきた兵達は、迷わずに斬り捨てた。
それを見た数名は、恐れをなして逃げていった。
「……苛々する。」
ゼロは舌打ちすると、逃げていく兵達の背を見送る。
その気になれば、一気に距離を詰めて、斬り伏せることもできるだろう。
だが、それをしてしまったら……
「姉貴に、顔向けできねぇ……」
騎士として清廉潔白に生きてきた姉、アインの名を汚すことになる。
(俺は、弟なんだから。)
苛立ちを吐き捨てるように、大きく溜め息を吐く。そして、人質達のところへ歩いていく。
「もう大丈夫だ。……怖かったな。」
槍を向けられた女に声を掛ける。女はゼロの足にしがみつき、まるで呻くように泣いた。
「大丈夫だ。あんたらはローランド王城の方に必ず帰してやる。……で、あと何人いるんだ?」
優しく問いかけるゼロに、女は答える。
「捕まったのは……6人。でも、3人はもう……殺されて、私と……奥にふたり……」
泣き顔のまま答える女に、ゼロは再び沸き上がる苛立ちを抑えるのに必死になる。
(3人も……殺しやがったのか。)
逃がさなければ良かった、と言う衝動を抑え、ゼロは奥へと進む。
「……なんだ、こりゃ……。」
先程、女が言っていた、「殺された3人」の中で、ひとりはぐったりと横たわり、もうひとりは、自らの身を守るように、丸くなっていた。
鼻をつくような、血の匂い。
(ひとりは生きてる。問題ない。あとひとりは……)
横たわる少年を抱き起こす。
「おい!しっかりしろ!もうすぐ帰れるからな!……おい!聞いてるか!?」
ゆさゆさと、身体を揺さぶる。
……と、その時、着ていた服がはだけた。
「……!!」
無数の痣、そして切り傷。拷問と言うにはあまりにも凄惨な、まるで「いつ死ぬのか」を楽しんでいたかのような、そんな傷が少年の身体の至るところに刻まれていた。
(……ふざけやがって……!!)
宰相派への怒りと、回復魔法の使えない自分に怒りが込み上げてくる。
聖剣の力を借りようとも考えたが、何故だか反応しなかったのだ。
「おい!生きてるな?反応しろよ!」
耳元で怒鳴るように声を掛けると、ようやく少年が絞り出すように声を出す。
「ね……えさ…………」
その言葉を聞いたゼロの背中に、『黒い予感』が走るのに、そう時間はかからなかった。
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