第3章:ローランド王国の内乱

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剣先から滴る返り血。 数名、破れかぶれで襲ってきた兵達は、迷わずに斬り捨てた。 それを見た数名は、恐れをなして逃げていった。 「……苛々する。」 ゼロは舌打ちすると、逃げていく兵達の背を見送る。 その気になれば、一気に距離を詰めて、斬り伏せることもできるだろう。 だが、それをしてしまったら…… 「姉貴に、顔向けできねぇ……」 騎士として清廉潔白に生きてきた姉、アインの名を汚すことになる。 (俺は、弟なんだから。) 苛立ちを吐き捨てるように、大きく溜め息を吐く。そして、人質達のところへ歩いていく。 「もう大丈夫だ。……怖かったな。」 槍を向けられた女に声を掛ける。女はゼロの足にしがみつき、まるで呻くように泣いた。 「大丈夫だ。あんたらはローランド王城の方に必ず帰してやる。……で、あと何人いるんだ?」 優しく問いかけるゼロに、女は答える。 「捕まったのは……6人。でも、3人はもう……殺されて、私と……奥にふたり……」 泣き顔のまま答える女に、ゼロは再び沸き上がる苛立ちを抑えるのに必死になる。 (3人も……殺しやがったのか。) 逃がさなければ良かった、と言う衝動を抑え、ゼロは奥へと進む。 「……なんだ、こりゃ……。」 先程、女が言っていた、「殺された3人」の中で、ひとりはぐったりと横たわり、もうひとりは、自らの身を守るように、丸くなっていた。 鼻をつくような、血の匂い。 (ひとりは生きてる。問題ない。あとひとりは……) 横たわる少年を抱き起こす。 「おい!しっかりしろ!もうすぐ帰れるからな!……おい!聞いてるか!?」 ゆさゆさと、身体を揺さぶる。 ……と、その時、着ていた服がはだけた。 「……!!」 無数の痣、そして切り傷。拷問と言うにはあまりにも凄惨な、まるで「いつ死ぬのか」を楽しんでいたかのような、そんな傷が少年の身体の至るところに刻まれていた。 (……ふざけやがって……!!) 宰相派への怒りと、回復魔法の使えない自分に怒りが込み上げてくる。 聖剣の力を借りようとも考えたが、何故だか反応しなかったのだ。 「おい!生きてるな?反応しろよ!」 耳元で怒鳴るように声を掛けると、ようやく少年が絞り出すように声を出す。 「ね……えさ…………」 その言葉を聞いたゼロの背中に、『黒い予感』が走るのに、そう時間はかからなかった。
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