第3章:ローランド王国の内乱

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「一度伝令を飛ばせば……その時点でガーネット、貴様の弟は命を落とすのだ。……それを忘れるな。」 ガーネットにそう言った、宰相の言葉をゼロは思い出していた。 ざっと周囲を見回す。 遺体も含めて、捕虜は6人。 先程、兵士達から助けた女。 牢の奥で、縮こまって身を守ろうとしていた女。 遺体は、男ふたり、女ひとり。 そして…… ゼロの腕の中。 息も絶え絶えの、少年がひとり。 この少年以外は、皆……おそらく成人男女。 そして、少年が口にした「ねえさん」という、言葉。 もう、ゼロも疑う余地はなかった。 「お前!……ガーネットの弟だな!……おい、しっかりしろよ!」 体を揺すり、少年の意識が途絶えないように努めるゼロ。 しかし、ゼロは分かっていた。 (たぶん……夜明けまで持たない……) その傷の多さ、打撲の多さ。 兵士たちは、生死を問わず、この少年をいたぶったのであろう。 慈悲の欠片もないその様に、ゼロの怒りは止めどなく膨らんでいく。 「ガーネット……姉さん……」 少年が呻くように呟く。 もう、待っては居られなかった。少年を背負い、 「おい!コイツ、急いで城下に連れていく!……お前ら、ゆっくりで良いから城下に来い!」 助けた女に、大きな声で告げる。女は状況を理解したのか、大きく頷いた。 「おい、しっかりしろよ!……姉貴に会うぞ!それまで生きろよ!」 少年を背負ったまま、ゼロは大きな声で少年に言い続ける。時折その体を揺すりながら。 地を蹴る、走る。 現在地からならローランド城下町の方が距離的に近い。 自分のことを怪しむ兵は居るだろうが、寛大だと有名なローランド国王。きっと背にした少年の様子を見れば、中に入れてくれるはずだ。 城下町に入ってしまいさえすれば、そこには僧侶でも神官でも控えているだろう。 「急ぐぞ!揺れるぞ!……お前は、絶対に寝るんじゃねーぞ!」 とにかく必死なゼロ。 ガーネットには、自分と同じ悲劇を味わって欲しくなかった。 きょうだいが、ひとり欠けるという、あの絶望を。 「寝るなよ……絶対に寝るなよ!……俺が姉貴と会わせてやる!……姉貴は絶対に死なせねぇ!……内乱なんてすぐに終わる!そうしたら、ふたりで猟師でも再開すれば良い! 」 姉との幸せな生活。 自分では叶わなかった、その夢を。 ゼロは少年に託すかのように、必死に大声で伝えながら、とにかく走った。
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