第3章:ローランド王国の内乱

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遠く、地平線に、ローランド城下町の城壁が見える。 「もうすぐだからな!絶対に寝るなよ!」 ずっと背負った少年に声をかけながら、ゼロはひたすら走る。 「……とめて……ください…………。」 そんなゼロを制止する、少年のか細い声。 思わず地を滑り、その勢いを止める。 「止まったら危ないんだぞ! 城下に着けば、お前は……」 「……きっと、そこまで持ちません。」 ゼロの希望を砕く、少年のひとこと。 分かっていた。 たとえ城下に着こうとも、すぐに僧侶や神官がつかまるとも限らない。 探している間、少年が持ちこたえる保証など、どこにもなかった。 それでも。 少年には、生きて欲しかったのだ。 「……くっ」 奥歯を噛みしめ、少年を降ろし抱き起こす。 「姉さんに……これを。」 少年は、震える手でゼロに向かって指輪を差し出す。 翡翠の宝玉が付いた、美しい指輪だった。 「つけてると……とられちゃう……から。」 震える手は、次第に下がっていく。 ゼロはその手を力強く握り、指輪を受け取った。 「鷹の目の指輪……。僕が弓、下手だから、姉さんがつけてくれた……。その指輪をつけた姉さんは……むて……き」 少量の血を吐く少年。 「……んなもん、お前が直接渡せ!何……死ぬ気でいやがんだよ!」 きっと、少年はここで死ぬ。 それはもう、必至だ。 それでも、ゼロは簡単には認めたくなかった。 「姉さんに……伝えて。……ありがとう……って。」 少年は、最後に精一杯の笑みを浮かべると、静かに目を閉じ…… 「寝るなって!……テメェ男だろうが!」 ……そして、絶命した。 力の抜けた少年の亡骸を、手近な岩に寄りかからせ、 「ちょっとだけ、待ってろ。こんな下らねぇ内乱、とっとと片付けて……ガーネットが迎えに来るから。」 城下の影に背を向け、砦へと向かう。 (何が内乱だ……民のために、とか言っておいて、その民が殺される……ふざけんじゃねぇぞ!) 激しく沸き起こる、怒り。 叫びだしたくなるような衝動を必死に堪え、ゼロは砦へと走る。 本当は、宰相をこの手で斬り捨ててやりたい。 だが、その役目は、自分のものではない。 「宰相……お前は、絶対に許さねぇからな……!」 翡翠の宝玉が光る指輪を握り締め、足が千切れそうなほど、走った。 そんなゼロの背を、朝日が照らす。 夜が、明けようとしていた。
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