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「ゼロ!!どこにいるの?ゼロったら!」
エリシャ宮殿内。
白銀の鎧に深紅のマントを靡かせながら、若い女騎士は人を探していた。
「将軍!異常無しであります!」
騎士がすれ違う度、兵士が一様に敬礼し、状況を報告する。
「ありがとう。御苦労様。」
騎士はその報告ひとつひとつに面倒くさがる事なく、丁寧に応え、労う。
「もー……ゼロったら、すぐにいなくなるのだから。落ち着きの無い子……」
宮殿内で顔を合わせる人に微笑みを返し、手を振る『将軍』こそ、エリシャの華将軍こと、アインである。
アインは宮殿の入口まで出てくると、庭園で呟く。
「夕食は……抜きね。」
その瞬間、
「そりゃねーよ……姉貴。」
アインの背後に、黒い衣服の青年が立っていた。
「ゼロ…すぐに気配を消して背後に立たない!」
「無防備な姉貴が悪いんだろーが。そんなんじゃ、何されるか分からねーぞ?」
口元に笑みを浮かべたまま、アインの腰に手を回して見せる、ゼロと呼ばれた青年。
アインとゼロ。
エリシャの華将軍と名高いアインと、風来坊と言われ、どの団体にも所属しない弟、ゼロ。
アインの名が広まっているが故に、ゼロの放浪ぶりも、自然と有名になっていた。
長い金の髪に蒼い瞳のアインと、黒い髪に紅い瞳のゼロ。
白い鎧に黒い服。
その対象ぶりが、ふたりの美男美女を、より際立たせていた。
「どこにいってたの?控えの間で待っていなさいって言ったでしょう?」
優しく叱るアインに、
「俺、待つの苦手だからさ、ちょっと白騎士団の連中をからかってきたわ。」
にやにやしながら、ゼロが言う。
「また……部下達をからかうのはやめて欲しいわ。……それより、早く離れなさいよ。」
腰に回された手を、ぺしぺしと叩くアイン。
「本気で剣をやるなら、私がいくらでも訓練の相手になるのに……」
困った顔のアインから、ゆっくりと離れながらゼロは、
「はぁ?姉貴が相手だと、命がいくつあっても足りねーよ!」
などと悪態をつき、少し先を歩く。
「行こーぜ。俺、美味い肉が食いてぇ!」
屈託なく笑うゼロ。そんなゼロの笑顔に、思わず笑みが漏れるアイン。
「……そういう不意打ちの可愛さはやめて欲しいわ。普段はガラが悪いくせに……」
ゆっくりと、アインはゼロを追う。
「姉貴!早くしろ!肉が逃げる!」
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