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「ふーっ、食った飲んだ!」
腹をポンポンと叩きながら、満足げな表情のゼロと、
「あなた……食べ過ぎよ。太ったらせっかくの美男が台無しよ?」
呆れ顔のアイン。
酒場から家までの距離はそう遠くない。人通りの少ない道を、ふたり歩く。
「姉貴よぉ……」
ふと、ゼロがアインに声をかけた。
「なぁに?」
珍しいこともあるものだ、と興味深く耳を傾けるアインに、ゼロはそっぽを向いて言う。
「無理……すんなよな。別に姉貴が将軍じゃなくてもよ……無事に帰ってくれば、俺はそれでいい。」
日々の激務の事を思ってだろうか。ゼロが珍しく、アインを気遣った言葉を発した。
「……心配?」
胸がいっぱいになったアインは、わざといたずらっぽくゼロに問う。
「あ?……別に。このままだと華将軍が、嫁の貰い手のいないゴリラ将軍になりかねないからな!そっちのが心配だ!」
笑いながら先を走るゼロ。
「なんですって!?……まったくもう……。」
怒るふりをしながらも、最後には笑顔になるアイン。
冗談だとわかっていた。
昔から、思ってもいないことを言うゼロは、決して自分と目を合わせない。
だからこそ、ゼロの言葉の真意に気づくことがこれまで出来ていた。
どのくらい本気なのか、冗談なのか……
それは、ゼロの性格のような正直な視線が、しっかりと語ってくれていたから。
ふと、先を走っていたゼロが足を止めた。
「……どうしたの?」
アインはゼロに追い付き、問う。
「あっち……なんかおかしくねぇか?」
ゼロの視線はアインに向くことなく、真っ直ぐ北の方角を見据えている。
「……おかしい?」
アインにはまだ、状況は読み込めていない。
「あの影……動いてるぞ。……軍隊じゃねぇか?」
遠くに見える影。アインはそれを林の影だと思っていた。それをゼロは、軍隊だと言う。
「姉貴!宮殿に戻れ!オスカー様に知らせてこい!俺は、もう少し近くで見る!」
そう言って、突如走り出すゼロ。
「ゼロ!!待って……!」
引き留めた頃には、ゼロの影は遠くなっていた。
ゼロの勘は、アインが驚くほど鋭い。そんな彼があれほど取り乱しているのだから……
アインは踵を返す。
そして全速力で、宮殿へ走った。
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