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焼け野原となった帝国の地を踏みながら、シエラは歩く。
向かう先は、西の国、ローランド王国。
『ローランド弓兵団』は大陸屈指の弓兵団であり、魔物や蛮族なとの進行を、遠距離から牽制し、食い止める事に特化した団である。
帝国も、1度だけ魔物侵攻の際、後方支援を依頼したことがある。
その時の弓兵団の展開は迅速且つ確実であり、魔物達の侵攻を目に見えて遅らせた。
その中心となるスナイパー・ガーネットという女がシエラは印象に残っていた。
弓兵団の遥か後方から、前方の的を寸分狂わず射抜いていく姿が、剣士であるシエラには印象的だったのだ。
(ガーネット……また、会えるかしら……)
特に面識はなかった。ただ、いつか力を貸して欲しい人物でもあった。
「そうですわ……」
歩みを進めながら、ふとジェイコフに視線を移す。
「旅の間は、私の事を殿下などと呼ぶことの無いように気を付けてください。私の素性が知られ、旅先にご迷惑をかけるわけには参りません。」
ジェイコフは、少々困った顔をする。
それもそのはず。
ジェイコフはシエラが生まれたときからずっとシエラを『殿下』と呼び続けてきたのだ。
「恐れながら殿下……なんとお呼びしたら良いか……」
「シエラ、と呼べば良いでしょう?」
即答で帰って来た、『殿下』からの返答に、ジェイコフの頭は真っ白になる。
「そのような不敬!私には!!」
シエラは苦笑い。そう言えばそうだった。ジェイコフは絵に描いたような朴念仁であったのだ。急に「名で呼べ」などと命を下しても、理解できるわけがない。
「困りましたわ……。あ、ではシエラ殿……では如何です?」
年齢差もあるので、出来れば自然に『シエラ』と呼んで欲しかったのだが、あまり不自然すぎても怪しまれる、と最大限譲歩した。
「シエラ……殿……。それならなんとか。」
ジェイコフも渋々頷く。
「ふふっ……それともお祖父様、シエラ、とでも呼び合いましょうか?」
そんな昔から変わらないジェイコフに、つい笑顔で絡んでしまう。
「お戯れを!!」
顔を真っ赤にして戸惑うジェイコフを見ながらシエラは思った。
ジェイコフだけでも生き残ってくれていて、本当に良かった、と。
「……守ってくれて、ありがとう。」
興奮するジェイコフに聞こえないように、シエラは笑顔で呟いた。
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