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深夜。
ゼロは、砦の北にいた。
小さな、砦と言うにはあまりにも粗雑な作りのそこに、数人の民がいた。
「なーにが、国のために、だよ……屑が。」
手錠で後ろ手に縛られ、拷問された様子がうかがえる、数人の男女。
痩せ細り、生気は失せ、ただ「生きている」状態。
食事と呼ぶにはあまりにも雑な食糧を地面に撒かれ、水は飲まされるのではなく、かけられた。
ぎり、とゼロの奥歯が音を立てる。
「お願い……あの人だけは……助けて……」
兵士のひとりにすり寄る女を、まるでゴミをよけるかのように蹴り飛ばし、
「ゴミが私に触れるな!」
と罵声を浴びせる兵士。
泣き声とも、悲鳴とも取れる呻きをあげながら、地に突っ伏す、女。
その背に容赦なく、鞭が振るわれる。
「反省しろ!身の程をわきまえぬ、ゴミどもが!」
何度も、何度も打ち付けられる背は、まるで女のものとは思えない、ただれて醜いものであった。
「もう、殺しても良いんじゃないか?」
兵士のひとりが、鞭を持つ手を止める。
「どうせ、宰相派に入れられれば抜けられないんだ。入った時点で、人質など用済みだろう?……あのガキみたいに、手遅れのやつもいるし、ひとりもふたりも変わらんだろう?」
醜い笑顔で、兵士が奥を指差す。
そこには、
まるで雑巾のようにボロボロになった、少年の姿があった。
兵士が、突っ伏す女を無理矢理仰向けにする。
その手には、鞭ではなく槍が握られていた。
驚きと恐怖で言葉がでない、女。
兵士は血走った目でその様子を見て笑うと、
「一度、無抵抗な女を貫いてみたかったんだよ……」
槍を、振り上げた。
「……あの世でやれよ、バァカ。」
振り下ろそうとしたその視界に、ゼロがいた。
「………………え?」
現状を理解するより早く、兵士の身体は横たわっていた。
真っ赤な血が、そんな兵士を染め上げていく。
「ちょ……待って……死にたくない……。」
ふるふると身体を震わせ、命乞いをする兵士。
それを冷めた目で睨み付け、ゼロが言う。
「……何人殺した?二人か?三人か?……なら、お前は……四人目だ。」
兵士の最期を見届けることなく、他の兵に向かって歩くゼロ。
猛るもの、怯えるもの……
様々な表情が、一斉にゼロに向けられる。
「……お前らは……どうする?俺から見れば、全員……」
その目には、怒りがこもっていた。
「……ゴミクズだけどな!」
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