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「テメェ……俺は市場で悔しい思いしてんだ。さっさと退かねぇと痛い目に合うぜ?」
アズマ城・城門前。
3人の行く手を阻む門番ふたりに、ゼロが睨みをきかせていた。
(どうして今日は、おかしな客人ばかり来るんだ……)
衛兵のひとりが、大きなため息を吐く。
それを、ゼロは見逃さなかった。
「おい……何だ今のため息は?」
じりじりと門番との距離を詰めるゼロ。
「よさんか。それではただの賊と変わりないだろう。」
そんなゼロの肩を押さえ、ジェイコフが諭す。
「ふふっ……ここは私に任せてください♪」
そんなふたりの横をするりとすり抜けると、シエラはふたりの門番の前に立つと、優しく微笑み、言う。
「私、シエラと申します。ローランド国王の使者として、アズマ国王陛下に会いに参りました。お目通り……かないませんか?」
恭しく頭を下げると、丁寧な言葉で門番に問う。
(まともな客人がいた…)
(しかも……か、可愛い……)
ふたりの門番も、一瞬で警戒を解いた。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。しかしながら、国王はただいま謁見中。もうしばし時間をいただきたく……」
「その必要はない。」
門番がシエラに頭を下げようとしていた、その時。
『先客』が城内から出てきた。
「妾の謁見は済んだ。さぁ、通るがよい。」
まるで自分の城のように、入場を促したのは、ヨハネだった。
「門番よ、国王の許可はすでに妾が取ってある。こやつらを通すがよい。」
『国王の友人』がそう言うのでは反抗のしようがない。門番がすっと道をあける。
「わりぃな。通るぜ~」
ゼロはひらひらと手を振り、門をくぐる……が、
「……そなたは待機じゃ。」
ぐいっ……とヨハネはゼロの腕を引く。
その行動の真意がわからず、ゼロは不思議そうに目の前のヨハネの顔を見る。
「俺……お前のことなんか知らねぇぞ?」
「うむ。妾もお主とは初対面じゃ。」
あっさりゼロの疑問に答えると、
「お主に話がある。大丈夫。国王の方はお主がいなくても事が運ぶ。妾との話は、お主にしか出来ぬ話じゃ。付き合え。」
ヨハネは真剣な表情でゼロの瞳を見据える。
「……っ!」
見据えられたゼロは、まるで金縛りにあったように動けなくなる。
(なんだこれ……動いたら、殺される……?)
殺気にも似た、そんな魔力。
それはゼロがこれまでの人生で知りうるどの魔導士よりも強大なものだった。
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