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「あーー!」
驚きのあまり大きな声が出た。
何故ならモニターに、図鑑にも論文にも載っていない菌類の姿が映っていたからだ。
「こ、これは新種?」
食い入るようにモニターを見つめる俺はプリップリの楕円形に細かい錦糸のような糸を巻き付けたカビルンティに釘付けになった。
まるで天使の卵だ。
「かわぇぇ!」
歓喜の声を上げると、言葉の意味を理解するかのように、胞子を吐き出すカビルンティ達。
「お前らまさか。お父さん(俺)の誕生日に合わせて新種を生み出してくれたのか? うはっ! 最高のプレゼントだよ、お前たち。名前はmoldだけにモルちゃん? モルティ? 芹理奈も見てくれよ。俺の為にコイツら――」
「はいはい。もう分かった! 大事なカビルンティを繁殖させる為に、これは私からのプレゼントよ!」
怒りに満ちた声を上げた彼女は手に持っていたケーキ箱を俺に投げつけた。
飛び出す生クリーム。
それに反応するカビルンティ達。
「あんたなんか知らないっ!」
怒鳴って立ち去る彼女の背中を見送りながらも、俺は感謝した。
「芹理奈、流石だよ。菌類が喜ぶ御馳走を置いていってくれるだなんて。俺が一番嬉しいと思う事を熟知していてくれたんだな」
これが彼女からの「別れ」の通告だと気が付かない俺は、彼女を追い駆けることなどせず、愛するカビルンティ達と、崩れたケーキで自分とモルティの誕生日を祝った。
後日
俺のあだ名が「菌類最狂の男」となったのは言うまでもない。
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