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「すみません。忘れていました」
潔く頭を下げて謝ると、頭上から呆れたような溜息が降って来た。
「なぁんでこんなに可愛い彼女よりも、そんなバッチィ(汚い)カビルンティにゾッコンになっちゃうかなぁ」
研究室の至る所にあるガラスケースの中で繁殖しているカビを眉間に皺を寄せて見回す彼女は、「肉食系な誕生日のクセに、女の子よりもカビが好きだなんて詐欺だよ」とブツブツと独り言を呟いている。
それを聞いて俺は内心、『カビコもカビッキーも別嬪さんだ』とか『皆、俺が手塩にかけて育てた子供なんだぞ』などと否定するものの、そんな事は口が裂けても言えない。
だってそうだろ?
そんな事を言ったら最後。
彼女は鬼と化して手に負えなくなるだろう。
そんな恐ろしいこと言えるワケがない。
黙って反省しているフリをすると、急に芹理奈が俺の腕を取ってグイッと引っ張り、椅子から立ち上がらせた。
「さっさと片付けて、私の部屋に行こうよ。それでさ。誕生日のお祝いさせてよね」
柔らかい胸に俺の腕を押し当てて微笑む彼女に、思わずドキンッと胸が高鳴る。
「あぁ……ごめん。そうしよう」
肉食系ではないが、彼女のお誘いは断ってはいけない。
据え膳喰わぬは男の恥と言うではないか。
さっさと片付けて、彼女とイチャラブしようと決めた時であった。
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