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「持って降りるのを、手伝って上げる」
そこらの紐で、手慣れた手付きでタスキを掛ける。
着物の裾をちょっこっと端折って帯に挟むあたり、水商売の女の慣れた動作に見える様に心掛ける。
似合わない場所で下働きをしている、危険な匂いのする女だ。
以前にも清次が、此処で狙われている。
きっとまた遣る気だと本能が教えるから、女から目を離さないと決めた。
「この頃のウチはね、外で炊いたご飯のおにぎりが好評なのよ」
何時の間にか戻って来た志緒ママが、自慢そうに言っている。
「何と言ってもね、庭に釜戸を造ちゃったんだから。凄いでしょう」
何だか、とってもご機嫌がいい。
「今日は、久し振りに若さんが来てくれるんだから、お客様はお断りするのよ」
早めに出勤して来た若いオカマに言い付けながら、夏子が逃げない様に、ドアの近くに陣取った。
さっき掛かって来たのは、鬼頭からの確認だった。
清次が、用があって千葉の邸に帰ったら、夏子が脱走した後だったから大変。軽のワゴン車を巻き上げられた若い組員を吊し上げて、行き先を聞き出した。
怒りに燃える清次を宥めて、連絡を入れて来たのだ。「迎えに行くまで、とのかく押さえて置け」と言っていた。
前回のオカマの件もあって、益々頭が上がらない鬼頭の言い付けだ。
まさか清次が来るとは思っても見なかったから、料理番の中年女が居なかったら、間違いなく逃げ帰っていた夏子である。
だが、夏子は見た。
「若さんが来る」、と志緒ママが言った時。彼女の身体に走った一瞬の緊張を。麻薬取引の現場に踏み込む時、マトリチームのメンバー達に走る緊張に似ていた。
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