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朱鷺おばあ様の孫である
仁兄様に嫁ぐということは、
巫女になるということだ。
しかし、残念ながら彼女は及び腰らしく、
こんなに素晴らしい説法を、
『ほにゃららとしか聞こえません』
とボヤいている。
なんだかカチンとした。
子供の頃から憧れだった仁兄様。
その妻となる女性が
こんなにヤル気の無い人だなんて。
これはガツンと
言ってやらなくては。
「…あら、私にはちゃんと聴こえるわよ。
『太古の創成神話の回廊から豊饒な物語
を紐解くとアトラ・ハシースに成り代わ
る現代人は存在しない』と言ったの。
アトラ・ハシースをご存知無ければ、
『アトラ・ハシース叙事詩』と
『ギルガメシュ叙事詩』をお貸しするわ」
一気にまくしたてると、
アキラさんが私にこう訊いてきた。
「あ、リナちゃん。
いつの間に席を移動したの?」
それにも答えず、私は更に畳みかける。
「奥成のお祖母様の話は毎年興味深いわ。
貴女、いずれあの跡を継ぐのでしょう?
もっと文献を読み漁り、
知識を広げなくてはね」
ぐりん、と顔を後ろに向けた婚約者は、
驚くほど愛らしく。
無性にそれが腹立たしかった。
そう、おかしな話だが、
ヤキモチを妬いたのである。
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