1章

7/9

26人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
 僕はネットを巡回し、街を徘徊した。  安全に人肉を手に入れることのできる場所を探し求めていた。  ネットで紹介されていた人肉を扱っていると噂されている店の前を何度も素通りしては、最後の一歩を踏み出せず、手ぶらで家に戻る毎日が続いた。  予備校の成績は落ちる一方で、現役の時よりも悪くなっていた。すべり止めが本命になりつつある。  駅のホームに立ち、なんでこんな目に合わないといけないのだと、運命を呪いたくなっていた。  自分の目の前に立つ男がホームから線路に飛び込んでバラバラになってくれたら、すぐに肉片を拾って逃げるだろう。  男の背中に近づいてみた。  電車が到着するアナウンスが流れている。風向きが変化していた。  僕が腕を前に軽く伸ばすだけで、この男は死んでしまうのだ。  考えてみたらなんて無防備な街なのだろう。  人を殺すタイミングなんていくらでもある。  これまでずっと意味もなく平和な国であったが故に、反動も大きかった。  危機に対する準備が何も整っていないのだから当然である。  自分の部屋に戻りネットニュースをチェックしていると、興味深いものを発見した。  ある男が自分の体を食べて部屋で死んでいたというのだ。  どうしても我慢ができなくなったが故の、最後の手段だったのだろう。  SNSでは笑いものになっていたが、僕の寝付きを悪くするには十分な内容だった。  その記事を読んだ翌日。  僕はついにずっと前を素通りしてきた店に足を踏み入れる決意をした。  迷いは消えていた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加