4章

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「おい! 早く斧を落とせ!」ロメ郎が観客席で叫んだ。  最初の一撃ですでに死んでいたのだ。天井から斧が落下してくるのを、僕はショウの背後に確認していた。  ショウは意味不明な言葉を発し、顎がはずれるほどに口を開いて襲い掛かってくるのだった。実際に顎は外れていたみたいで、僕の腕に噛み付こうとしているが、口が閉じなくなっていた。  頭に刺さっているバールを抜き取ろうとしたが、深く入り込みすぎていて、なかなか抜けない。脳みそをかき混ぜるようにバールをグラインドさせると、ようやく抜けた。  ショウが足を滑らせて倒れると、頭にぽっかりと開いた穴から黄色いスムージーみたいな液体がどろりとこぼれ落ちた。  僕は落ち着きを取り戻しながら斧を拾い上げると、床でブレイクダンスをしているショウの首に狙いを定め、斧を落とした。  その光景は、天井の雨漏りの水を溜めているバケツに足を引っ掛けた時を思い出させた。大量の血が波紋を作りながら床に広がっていく。  会場は静まり返っていた。それが妙に心地良い。アウェーで勝利した感覚だ。  髪の毛に染み込んだカニバたちの血が、ポタポタと足元に落ち、その滴の音が聞き取れそうなくらいの静寂の中、僕は檻から外に出た。  ショウは相当な実力者だったのだろう。僕を見るカニバたちの目つきには、驚きと恐怖が混じっている。それは岩城師範代や加持選手も同じだった。そしてロメ郎も。  こうして最大限のインパクトを残して、僕の刑務所生活は幕を開けた。
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