2章

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「残り1週間か・・・・・・」  僕は地下の階段を一段とばしで駆け上がり、外に出て目を細めた。  腹立たしいくらいに天気が良かった。若いカップルが手をつなぎながら笑顔で前を通り過ぎ、その後ろには小さな子供を連れた夫婦が、買い物袋をぶら下げて歩いていた。  彼らを睨みながらシャツの袖で口を拭くと、血が付着した。  今までタダで人肉を食べてきたのだ。僕もルールに従って死体を用意しなければいけない。予備校の成績は笑えるくらいに上昇し、志望校はA判定が出ている。  このまま組織と縁を切って有名大学に入ってしまえば、僕の人生は順風満帆だろう。  組織から逃げ切れるとは思えないが、仮に雲隠れに成功しても、きっとまたここに来てしまうだろう。  僕はもう、人肉を摂取しなければ何もできない体になってしまっているのだから。  やはりホームレスが狙い目だろうと思い、河川敷や高架下を重点的に散策したが、あんなにたくさんいた彼らの姿は、どこにも見当たらない。  とっくに食われているのだろう。そりゃ、そうだ。探す前から薄々気づいていた。確かめたかっただけである。  葬儀屋、病院、老人ホームは既に力を持ったカニバとズブズブで、僕みたいな若造が入り込む余地など無いのだろう。  タイミングが悪いことに、明日は模試だ。受けない訳にはいかない。  今日と明日、何も進展がなければ、残り5日間で死体を用意しなければいけないということ。これは焦る。でも今日は何もしたくない。  久しぶりに食べた人肉の余韻に浸りたかった。
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