2章

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 僕は彼を目で追った。  大学生であることを自慢するかのように、澄ました顔で黙々と作業をしていた。僕の目指す大学はもっと上である。ここは模試の試験会場にちょうどいいレベルの大学。先輩面なんてされてはたまらない。    試験が始まると、学生バイトが足音を立てずに通路をゆっくりと歩いて生徒を監視していた。  12番がこちらに近づいてきている。僕は額に手を当てて前髪をグシャグシャにし、顔を見られないようにしていた。  こんな偶然があっていいのだろうか。僕は不安と好奇心を抑えきれなくなって、すぐ横に来た瞬間にさりげなく顔を上げた。  12番はウィンクをしてから通り過ぎていくのであった。    出題科目ごとに制限時間は違うが、答案を書き終わった生徒は、用紙を教卓において、外に出てもいいことになっていた。僕は全問を解き終えて時計をチェックした。まだ40分も時間が余っている。迷わず外に出た。  誰もいない廊下を進んで喫煙所で立ち止まった。  タバコに火を点けると、ライターの着火音が廊下中に響き渡っていた。    ゆっくりと足音が近づいてきた。またいつものあいつらかなと思っていた。大抵僕が一番乗りで外に出て、二番手、三番手まで同じメンバーで固定化されている。三人共、成績上位者だ。共に難関大学A判定。  廊下の先を見ると、12番が堂々とこちらに近づいていた。  バイトはどうしたのだろうか? いや、バイト以前の問題だ。会員同士で話をするのはタブーのはず。  12番は迷いの無い足取りで接近してきていた。そして喫煙所に入ると、タバコをポケットから取り出したがライターが無い様子。  僕は黙ってライターに火を点けて、彼の顔に近づけた。
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