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テーブルの上に横たわっている30代前半と思われる男の死体は、まだ死後硬直すら始まっていない鮮度だった。
首には絞められた跡が生々しく残っていたが、表情は穏やかで、僕の罪悪感をやわらげる手助けになっていた。
防水加工された白いエプロンを身に着けたスタッフによって、男の体が手際よく部位ごとに小分けにされていく解体ショーを、僕は固唾を呑んで見守っていた。
スタッフは数種類のナイフを器用に使い分け、骨には中落ちがほとんど付いていなかった。
火が通されていないジューシーな人肉が、テーブルを囲む会員たちの皿に提供され始めると、わざとらしいくらいに唾を飲み込む音が聞こえてきた。
白い皿に盛り付けられたピンク色の肉は、性的な興奮すら満たしてくれそうな美しさだ。
付け合せに脳みそや心臓が添えられ、リクエストすれば早い者勝ちで睾丸や眼球を食べることができた。
希少部位が会員ナンバー12番に運ばれるのを見届けると、僕たち会員は目の前に差し出された人肉をゆっくりと口に運ぶのだった。
すぐに飲み込むのはもったいない。
咀嚼を繰り返し、味が消えるまで舌の上で転がし続けた。
「お食事中にすみません」会の主催者が口をナプキンで拭きながら恒例の挨拶を始めた。
「本日の美味しい新鮮なお肉は、会員ナンバー12番さんが提供してくださったものです。盛大な拍手をお願いします」
僕と周囲の会員たちはフォークとナイフをお皿の上に置き、促されるまま拍手を送っていた。
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