2章

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 指定された場所は、自然豊かな公園の中にひっそりとたたずむ公衆便所の隣にあるベンチだった。利用者はほとんどいないらしく、背もたれに描かれた男性器のイタズラ書きが消されずに残っていた。その公園はハッテン場としてその世界では有名らしく、便所の周辺にはコンドームが落ちている。  男はすでにベンチに座って待っていた。ロメ郎は遠くで双眼鏡を首からぶら下げながら待機し、僕が1人で会うことになったが、気乗りしなかった。男の体は異常にでかく、服の上からでも鍛え抜かれているのが伝わってきたのだ。 「確実にトラップでしょ、あれ・・・・・・」僕はロメ郎に耳打ちした。 「それは分からないだろ」 「自殺するような人間が体を鍛えますか?」 「それは認識が甘いよ。むしろああいうナルシストこそ、人生で思い通りに行かなくなった時に鬱になって、簡単に自殺するんだよ」 「・・・・・・とりあえず、会ってきます。ヤバくなったら速攻で助けてくださいね」 「もちろん」  僕は重い足取りでベンチに近づいた。男はチラチラと、こちらを気にしていた。髪は短く、ギリギリ清潔感のある無精髭を生やしている。遠くから見た時に、唇を舌で濡らしていたような気がしたが、気のせいであると信じたい。
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