序章

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「次回、お肉を提供してくれるのは、会員ナンバー13番さんです。今日から1週間以内にお肉を用意して下さい」  心臓が波打つのが分かった。  自分のターンだ。  入会から今日まで数ヶ月間リスクを追わずに人肉を食べ続けてきたわけだが、いよいよ死体を用意しなければいけない順番が回ってきたのだ。  逃げ出す訳にはいかない。  必ずみんなが喜ぶような死体を提供するつもりだ。 「死体の提供に失敗してもいいよ」  すぐ隣に座っているハゲかかった中年の男が、細い目を精一杯広げながら僕にそう言った。それを期待している会員はきっと多いだろう。  僕はこの会の中でたぶん最年少の19才なのだから。  一般的に最も美味しいと言われている「十代の男子」という条件を備えているのは僕だけなのだ。 「がんばってね」今日の主役である12番が、ひと仕事終えて緊張から解き放たれた余裕の表情で声を掛けてきた。 「はい・・・・・・」言われなくても頑張るつもりだ。  1人のスタッフが近づいてくると、僕の足首に太い足輪を装着した。 「この足輪にはGPSが内蔵されていますので、これから1週間、どこに居ても我々はあなたの動きを把握できるようになっています。逃走防止の為ですのでご了承ください。7日以内に肉を用意していただければ外します」  この組織には守らなくてはいけない幾つかのルールがある。  一つ目は、会員同士の素性を詮索しないこと。名前すら訊いてはいけない事になっている。  二つ目は、会員は持ち回りで1週間以内に腐っていない人間の死体を用意すること。女性よりも男性が好まれるし、高齢者よりも若者の肉が良いとされている。単純に味と量の問題だ。  そして三つ目は、死体を用意できなかった会員は、自ら死んでその体を提供すること。  一体なぜ浪人生の僕がこんな物騒な組織に所属して、人肉に舌鼓を打つはめになったのか、簡単に説明しよう。
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