3章

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「いきなり質問して悪いんだけど、カーニバルに参加してたということは、過去に人を殺しているということですよね?」爽やかな尾崎が突然話しかけてきた。 「・・・・・・まあ、そういうことになりますね」僕はモミアゲ部分を指で掻いた。 「なんで逮捕されないの?」 「証拠不十分だからだと思います」 「自首しないの?」 「その予定はないです」  爽やかだと思っていた尾崎だが、実際は性悪なクソ野郎だった。僕はかなり頭にきていたが、必死に感情を噛み殺していた。 「君みたいな人のせいで、カニバというだけで白い目で見られるようになったんだよ」尾崎は攻撃の手を緩めなかった。 「はい、そこまでです」カウンセラーの香坂が割って入った。「シモン君はそういった自分を変えたくてここに来ているのですから、そこのところを汲み取ってください」 「ほとんどのカニバは人肉が食べたくても、人を殺してでも肉を手に入れようなんて思わないですよ。亡くなった方の体の一部をなんとか金を出して手に入れたりはしていたけれど、それでもやっぱり相当に心が痛んだよ」尾崎はそう付け加えると、腕を組んだ。 「ちなみに何人くらい殺したの?」48歳の生島は僕に興味津々の様子だ。 「全部で5人です」僕は正直に答えた。 「5人か・・・・・・すごいね。でもカニバは逮捕されても死刑にならないから安心だね」生島は下がったメガネを指先で戻した。  生島が言うとおり、カニバは過去にどんな凶悪な犯罪に手を染めていても、死刑になることはなかった。なりたくてカニバになったわけではないため、大目に見られているのである。人権派弁護士の尽力の賜物だ。しかしそれを利用して、カニバじゃないのにカニバのふりをして死刑を免れようとする殺人鬼が出てくるという、新しい問題が発生していた。
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