3章

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 牧師がボランティアでカウンセラーを引き受けたのではないだろうかと疑いたくなるような、宗教じみた話が長々と続いた。僕は眠気を堪えるのに必死だった。カークを続ける自信がどんどん萎んでいく。  ようやく初日が終了すると、意気消沈しながら汚い建物を飛び出した。明日から何が始まるのだろう。今日は分厚い本の目次を朗読された気がした。  下を向きながら歩いていると、聞き覚えのある声が僕を呼び止めた。 「シモン君でしょ」整形臭い顔のビッチが派手な爪を見せながら指差してきた。 「・・・・・・シャーリーさん?」 「久しぶりだね。すごい偶然。浮かない顔してるからすぐに分かったわ」 「絶対偶然なんかじゃないでしょ。こんなところで何してんですか?」僕は呆れていた。 「営業活動よ」                                            「肉を売りさばいているんですか? わざわざここでやらなくてもいいでしょ」 「ここだからいいのよ。人肉を食べたくても我慢してる人たちがたくさんいる場所だし」 「最低ですね、あんた」僕は怒りを率直にぶつけた。 「買う買わないは本人の自由意志でしょ。私は選択肢を増やしてるだけ。怒りは私じゃなくて、自分の中の弱さにぶつけるべきよ」シャーリーは笑いながら言った。 「・・・・・・」僕はシャーリーを無視して前に進んだ。 「良い物あげようか?」 「いらないです」  シャーリーはバッグから10センチ四方の小さな袋を取り出した。 「これ、ジャーキーよ」 「ジャーキー?」僕は足を止め、袋の中に入っている焦げ茶色の物体を凝視した。 「私たちカニバの出発点である、あの幻のジャーキーを再現してみたの。無料サンプルだから試しに食べてみて」袋を持っているシャーリーの指先はわずかに震えていた。 「・・・・・・あの味なんですか?」 「ほぼ一緒。食べてみたら分かるわ」
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