3章

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 シャーリーと別れると、それを握りしめながら歩幅を広く歩いた。交差点を曲がった時、シャーリーの仲間と思しき売り子の女たちが、カークから出てきたカニバに狙いを定めて、ジャーキーのサンプルを渡していた。  さっきまで一緒にカウンセリングを受けていた尾崎もその中の一人だった。あれだけ偉そうな態度をとっておきながら、抵抗することもなくジャーキーを笑顔で受け取っていた。 「あの野郎・・・・・・」僕は一瞬熱くあったが、深呼吸してクールダウンした。人間なんて、あんなものなのだろう。他人に厳しい奴ほど自分に甘い。それは僕も一緒だし、世の常だ。  部屋に帰るまでの間にゴミ箱はいくらでもあったが、結局ジャーキーを捨てることはできなかった。本当にあの味をもう一度味わうことができるのだろうか。本当なら衝撃的な出来事だ。人生最初の自慰を再び経験するようなものである。袋の中にはジャーキー以外に電話番号の書かれた小さな紙切れが入っていた。  これを最後にしよう。明日から本気でカークに通って、人肉を絶てばいい。  そう言い聞かせて茶色い物体を口に運んだ。目を閉じて、舌に集中しながら咀嚼した。  まさにあの味。原点である。すべてはここから始まったのだ。  一瞬にして、カニバとしての短い歴史を振り返った。初めて殺した男の顔のシワの一本一本まで鮮明に思い出すことができた。  彼らは死んだのではない。僕を生かすことにより今も生き続けているのだ。記憶の中だけではなく、体の中で血、肉、脂肪となってこの世にとどまっている。
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