3章

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「ちょっちょ! 何なんだよ、お前!」オーナーはソファーから転げ落ちるようにして逃げ出すと、店の奥にある厨房の中に逃げ込んだ。  僕は支配人の顔面を蹴り上げてナイフを抜き取ると、後を追いかけた。 「てめえ、どういうつもりだ!」厨房の中から声が聞こえた。 「金を稼ぎに来たって言っただろ」警戒しながら中を覗き込むと、オーナーはアイスピックを握りしめながら奥で震えていた。 「だ、誰に雇われた! いくらだ! いくらで雇われたんだ?」 「あんたの命の値段なんて高が知れてるよ」 「倍の額を払うから、依頼者を殺してくれ! それでいいだろ」 「先にあんたから金額を言えよ。それが依頼者よりも上だったら考えてもいい。チャンスは1回きりだ」 「・・・・・・1000万でどうだ?」 「残念」 「じゃあ、1500万だ!」 「1回だけと言っただろ。あんたは自分を過小評価してるみたいだね」  僕は厨房の中に足を踏み入れると、ナイフを握り直した。厨房は真ん中に調理台が置かれてその周囲を歩けるようになっているため、相手を追い詰めることができなくなっていた。下手に追いかけるとテーブルを一周して逃げられてしまう可能性がある。僕は厨房の出入り口に立って、逃げ道を塞いでいた。 「あの、女だろ! お前の依頼主は! あの糞ビッチ!」オーナーは厨房に唾を撒き散らしながら叫んでいた。 「そうだ。あの糞ビッチだよ。僕も辟易してる」 「一緒に手を組もう! 君を幹部にしてやるから、あの女を倒して、シマを全部奪い取ろう! なっ? 山分けだ」オーナーは顔全体から大量の汗を吹き出し、アゴから滴り落としていた。 「悪い話じゃないけど、あんたのことをそこまで信用できないよ。どうせ裏切るだろ。オレがあんたの立場なら絶対にこんな若造を許せるわけないもん」 「そんなことないよ! ビジネスと割り切る」  その時だった。  ソファーで天を仰いでいた支配人が、口から血の泡をゴボゴボと吹き出しながら野太い叫び声を上げた。厨房の出入り口で振り向き、その一部始終を横目で観察していた僕の頭の中では、けたたましい警報が鳴り響いていた。  これは確実にやばい事になっていると直感していた。
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