3章

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 厨房の入り口から1メートルくらいの場所で、支配人は早めの夕食をとっているため、僕たち2人は出るに出られないもどかしい状況になっていた。支配人は僕に背中を向けているが、その横をすり抜けるのはかなりの度胸が必要だった。腕を伸ばせば簡単に届いてしまう距離なのだから。  僕はしゃがんで調理台に身を隠し、オーナーの後ろに回り込むことにした。どうしてもこいつだけは倒さなければいけない。そして道路で待機しているシャーリーから金を貰ってから、「変体」について問い詰めるつもりだ。死んだカニバがこんなゾンビ状態になることを知っていて、黙っていた可能性が高い。 「あれ? どこにいる?」オーナーは僕の姿を見失って声を震わせていた。最悪なことに、その声に反応して、支配人が振り向いた。  僕がオーナーの後ろに回り込もうとすると、オーナーは危険を察知し、調理台に上がった。支配人は体を左右に揺らしながら近づき、厨房の出口を完全に塞いでいた。口の周りは赤黒い血で染まり、顔の青白さを引き立てていた。 「クソッ! ふざけんな、この野郎!」オーナーは体に似合わない小さなアイスピックを振り回し、支配人と僕を同時に威嚇していた。  支配人が両腕を前に伸ばして足を掴もうとする度に、オーナーは短い足で必死に飛び跳ねて抵抗していた。 「早く捕まれよ」 僕が腕を伸ばしてナイフで脅すと、オーナーは後退りしてあっけなく支配人にキャッチされていた。服の上から右足のふくらはぎの肉を食いちぎられ、母親の名前を呼んでもおかしくないくらいに甲高い悲鳴を上げていた。  オーナーは調理台の上で尻もちをつき、もう片方の足で支配人の顔面を蹴り上げた。つま先の尖った革靴は卵の殻を割った時のような音を立てて、支配人の鼻をくの字にへし曲げたが、血はほとんど出ていなく、掴んだ右足を離すこともなかった。
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