3章

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「頼む! 助けてくれ!」オーナーは汗と涙でグチャグチャになった顔で命乞いしていた。 「あんたは今までに命乞いしてる人を助けたことってあるの? この無駄に広い厨房で女たちを解体してきたんだろ」  オーナーは左足で支配人の顔面を何度も蹴り続けていた。歯は折れ、右の眼球は破裂してミルクを流し、顔はもはや原型をとどめなくなっていた。さらには僕が刺した首の傷が少しずつ開き始め、骨の一部が顔を覗かせていた。  オーナーが渾身の一撃をくわえると、ついに首はへし折れて、後ろに90度以上傾いた。喉の裂け目からは白い骨がむき出しになり、体内にまだ残っていた血がわずかに吹き上げた。  支配人は180度体を回転させると、我々に背中を向けて、上下逆さまになっている顔でオーナーを睨みつけていた。 「くっそ!」オーナーは上体を起こすと、アイスピックを振り上げて、支配人の下顎に突き刺した。アイスピックはアゴを貫通すると、口の中を通り抜けて、上顎にまで達し、口は開けられない状態になった。  僕は2人の戦いを見届けてから、膝を曲げて調理台に上がり、オーナーの後頭部にサクッとナイフを突き刺した。ワンチャンスをモノにする賢い戦術だ。 「悪いね、オーナーさん。あんたには死んでもらうよ」ナイフを抜き取ると、少ない髪を鷲掴みにして頭を台に押し付け、首にナイフを深々と刺した。要するにチープなゾンビ映画にありがちな、頭部を切断しないかぎりしつこく襲い掛かってくるということなのだろう。  抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返した。雑な方法だが今は時間を掛けていられない。  木になった果実をもぎ取る要領で、最後は頭を回転させながら、むりやり腕の力でねじり取った。
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