3章

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 早いところ逃げよう。  司令塔である頭部を失ったオーナーは、元気に手足をバタつかせていた。生きている時よりも元気になっている気さえしていた。頭部も同様である。目はまばたきこそしないものの、眼球はせわしなく動き、口は何かを言いたげにパクパクしていた。部屋にでも置けば、インテリアとしてそれなりに楽しめそうだった。  とりあえず終わらせよう。この厨房で客の女を解体していたのなら、それ専用の道具がどこかにあるはずだ。オーナーは部下に命令するだけで、どこにしまってあるのか知らなかった故の、アイスピックだったのだ。  厨房の中を探し回っていると、支配人に首を噛まれて一度死んだホストが変体して叫んでいた。  頭が後ろに90度以上ヘシ折れている支配人は、方向感覚を失ってまっすぐに歩けなくなり、壁や調理台にぶつかっては、調理器具や調味料を床に撒き散らしていた。  業務用冷蔵庫の中にそれは隠されていた。冷え冷えのチェーンソーを奥から引っ張り出して、電源を入れると、外国製の掃除機の何倍もの爆音である。  激しい音と、慣れない振動に驚いた拍子に手からチェーンソーを滑り落とすと、刃は調理台に当たり、豪快に火花を散らしていた。
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