1章

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 食品加工会社の元従業員の書き込みには続きがあった。 「某独裁国家は世界最先端の麻薬製造技術を持っています。新薬の開発のために、数え切れないほどの人民が人体実験に利用されているのです。また政府に反対する反乱分子を薬漬けにして手なづけてきた過去もあります。こうして死んでいった人々の肉体が輸出されていたのです。その肉体には麻薬の成分が浸透し、一口食べると、麻薬と同じくらいのトリップがあるんです。そして中毒も。私の勤めていた会社の社長はそこに目を付けたんです」  僕の食べていたジャーキーはジャンキーだったのだ。  笑い事じゃない。  先入観とは恐ろしいもので、二度と手に入らないと思っていたジャーキーが人肉だと分かった瞬間に、僕の中で人肉への欲求が高まってしまったのだから。  ある日突然「あなたは本当の子供じゃないの」と親から告げられた瞬間に、それまで考えたこともなかった本当の親への惜別が込み上げるようなものだ。  猟奇的殺人事件を起こしたサラリーマンは、僕と同じジャーキーを食べていたとされている。それゆえの殺人だったのだ。  全国で頻発している殺人事件は、全てここから始まったと思っていい。  平和で礼儀正しいことが自慢だった我が国は、世界に名だたる危険地帯へと変化した。  外国人観光客は激減し、子供が一人で外を歩くと、その親は虐待容疑で非難される始末。
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