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「マジで終わったわ・・・・・・」僕の隣りに座っているカニバが、独り言にしては大きすぎる声で突然喋りだした。
誰も返事はしなかった。僕は窓の外の海と、遠くに浮かぶ島を眺めながら、男の言葉に耳を傾けていた。目が合うと会話が始まりそうで面倒くさい。
「あの島に流されて、外に出てきた奴はまだ1人もいないらしいよ。軽い罪でもカニバというだけであそこに入れられる。俺なんてただの万引き犯なのに、何十人も殺してきた奴と同じ扱いされるんだぜ? やってらんねーわ」
「・・・・・・」その何十人も殺してきた奴が、隣りにいる僕だ。
同行していた警官の1人が、警棒を振り回しながら口を開いた。
「お前らは存在が罪なんだよ。死刑にならないだけでも感謝しろよ」
「はあ?」男は食って掛かった。「あんたら警官の中にもカニバはいるだろ。都合の悪い部分は隠しておいて、偉そうなこと言ってんじゃねーよ」
「お前らだって同じだろ。都合が悪くなれば『なりたくてカニバになったわけじゃない』とか言うんだろ? 聞き飽きたから、それ。いつまでも同じ言い訳が通用すると思うなよ。不幸な境遇の人間なんてこの世には数え切れないくらいいるんだよ。お前らはその逆境をはねのけられなかっただけだ」
警官はそう言うと、スチール製の警棒を振りかぶり、男の頭に勢いよく落とした。
「え?」窓の外を向いていた僕は、突然自分の横顔に血しぶきがかかったため、驚いて振り返り、惨状を目の当たりにしていた。
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