4章

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「はい新人さんたち、一列に並んでください」  ガードレールの外側にいたカニバが手を叩きながら接近してきた。さっきまでの屈強な警官とは違い、駅の立ち食いそばにいそうな黒縁眼鏡をかけた普通のおっさんだ。 「なんだ、てめえ!」僕の隣りにいた金髪の青年が熱くなっていた。 「最初はみんな君みたいに元気なんだよ。黙って従っておいたほうが身のためですよ」おっさんはメガネのズレを直しながら助言していた。 「こっちは苛立ってんだよ、クソ警官のせいで! やっと開放されたのに、今度は中間管理職みたいなおっさんに偉そうな態度取られたら、怒りを押さえ込むことなんかできねーだろ」金髪は黒縁メガネのおっさんとの距離を詰めて見下ろしていた。 「黙りなさい」おっさんがそう言うと、金髪は反射的に相手の胸ぐらを掴んだが、そのままの体勢で膝をついていた。 「てててて」と泣き出しそうな声を出したかと思うと、静かな埠頭に手首の骨の折れる音が響き渡っていた。 「君はもう終わりです。この島には病院なんてありませんから。手負いのカニバは足を怪我した競走馬みたいなもので、肉にされるのを待つだけです」  おっさんが掴んでいた手を離すと、金髪は涙を流しながら地面にうずくまっていた。 「私は毎日ここに来て、新人たちに島の案内をしているんです。無用だと思う人はダンボールをそこに置いて、どこか遠くに行ってもいいです。少しでも生存率を上げたいと思う人だけ、私に付いてきて下さい」  おっさんは島の中心に向かってズンズン突き進んでいった。  僕を含めた新人カニバのほとんどが、互いに顔を見合わせてから、素直にそれに従った。手首がおかしな方向に折れ曲がってしまった金髪だけが埠頭に残った。
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