4章

9/40
前へ
/110ページ
次へ
 工場に近づくと、風下になった途端に強烈な腐臭が漂い、吐き気に襲われた。1年かけてバスタブに溜めた糞尿を追い焚きしたみたいな悪臭だ。 「みなさんはカニバだから中を見学しても驚くことはないと思います」  扉を開けると、床の至る所に茶色い水たまりがあり、数匹のゴキブリがそれを避けるようにして走り抜けていった。  巨大なベルトコンベアが最初に目に入ったが、使われている形跡はない。その脇に、いくつもの作業台が置かれ、台の上には頭部を失い、手足を縛りつけられた死体が置かれていた。  もちろんカニバの死体だ。頭を失っているのに元気に動いているのだから。  やせ細った男たちがそれらの死体を流れ作業で解体していた。  四肢をノコギリで切断する者、内臓を取り除く者、皮を剥ぐ者、骨から肉を削り取る者と細かく分業されていた。頭部は縦に2つに割られ、脳みそ、眼球、舌などが慎重に集められている。  作業台の横には不要な部位を捨てる巨大なバケツが置かれていた。元々青い色のバケツだったみたいだが、口の部分は汚れが層になって黒くゴツゴツしていた。中に溜まった内臓には無数のハエがたかっている。  床には排水溝があるが詰まって機能していなく、よく見ると白いウジが波打っていた。  黙々と作業をこなす男たちは、誰もが笑顔だ。手足は震え、目は上の空だが、巨大なナタで手際よく人肉をさばいていた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加