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「・・・・・・実はですね、抜け道も用意されているんです。どうしてもディナーショーに参加したくない軟弱なチキン野郎は、この加工場で働くことで免除されるんです」
「なんか、ゆるくないですか?」
「とんでもない! 寝食すべてここですよ? ウジ虫だらけの床で寝られます? 冬は暖房もないので、まだ温かい内臓の詰まったバケツの中に腕を突っ込んで暖を取るんです」
加工場で働いている人たちに、師範代の声は全て聞こえているはずだったが、誰一人反論することはなかった。手を休めることなく半笑いで黙々と人間の解体を行なっていた。体中に付着したドス黒い血や肉片にハエが群がっているが、彼らは意に介さず、顔についたハエさえも払うことはなかった。
加工場を出ると、自然の匂いがむしろ臭く感じるほどに、鼻が馬鹿になっていた。恐ろしいことにあの強烈な悪臭でさえも、長くいれば人間の嗅覚は慣れてしまうのだ。
「では、刑務所に行きましょうか」師範代は意気消沈している新人たちの人数確認をすることなく突き進んでいった。
「・・・・・・ちなみに、刑務所にも加工場にも属さない道というのはあるんですか?」僕はみんなの気持ちを代弁するかのように質問していた。
「まあ、あることはあります。でもほとんどの人が戻ってきます。この島で自給自足は不可能なんです。土は塩分が強すぎて作物が育たないし、漁をしようにも人喰いサメしかいない。ドロップアウトした者同士で殺し合っても、すぐに食料は底をつきます。私も少しは希望の持てることを言いたいのですが、残念ながらここには何もないです」
「なんであなたは、新人のためにここまでしてくれるんですか?」
「・・・・・・私には息子がいるんです。彼もカニバなんです。いつこの島に運ばれてくるか分からないので、毎日こうしてチェックしているんですよ」
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