4章

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 刑務所の中に入った瞬間、これまでの人生が法で守られたヌルいものであったことを痛感することになった。  汚れた毛布に身を包み、垢だらけの黒くなった体や、伸び放題の髪の毛を痒そうに掻きむしっている人がほとんどだ。床にはゴミが散乱し、ホームレスみたいにダンボールで作られた小屋も無数に散在している。彼らの視線は僕たち新人に集中し、品定めするかのように爪先から頭のてっぺんまで睨みつけられた。 「旨そうだな」前歯の抜けた男が僕を指差していた。  ポニーテールの大男が近づいてきた。  見覚えがあった。かつてインディーズのプロレス団体で活躍していた加持選手だった。子供の頃に買っていたプロレス雑誌で何度か表紙を飾ったこともある、知る人ぞ知るレスラーだ。 「岩城さん、いつもご苦労様です」加持選手は師範代のおっさんに頭を下げた。おっさんは岩城という名前だったらしい。 「いえいえ、気にしないでください。好きでやってることですから」岩城師範代は年下の加持選手に何度も頭を下げると、僕たちに別れを告げずに、遠くの方に歩いていった。 「よし、それじゃあ、君たちはダンボールを上層階に運ぶのを手伝ってくれ」加持選手の身なりは1階にいる誰よりも小奇麗で、岩城師範代よりも上質なモノを着ていた。
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