1章

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 カニバであることをカミングアウトしている学者を、最近テレビでよく見かけるようになっていた。僕の志望校の教授だ。彼が与党の政治家と討論している番組を覚えている。 「カニバの人たちを国は保護すべきです。彼らは好きでカニバになったわけではないのですから」教授は優しく語り始めた。 「しかし犯罪に手を染めている人が圧倒的に多いのも事実です」政治家は半笑いで切り返した。 「国が保護しないから犯罪に走るのです!」教授はいきなりヒートアップした。 「保護って言いますけど、国が彼らに人肉を提供するのですか? その人肉は一体どうやって、どこから入手するんですか?」 「国内外から買い取るしかないでしょうね。今まで死体は焼くか埋めるかだったのだから、国が買い取ってカニバに提供するのは有効な使い方だと思います。遺族にとっては生命保険に入るよりもお得です。今や人肉は松阪牛の数十倍の価格で取引されていますよ」教授は無理のある持論を展開していた。 「そんなこと不可能だ・・・・・・聞くところによりと、カニバの人たちは人肉を食べなくても普通の食事で生きていけるそうじゃないですか。意志の弱い一部のカニバのために人肉を国が買い取って配給するなんて馬鹿げてるでしょう」政治家は冷静だった。 「それでは、一部のカニバたちの犯罪を無くすことはできませんよ」 「罪を犯したカニバは、今まで通り法律で裁かれるだけです」 「酒やタバコはどうなります? あれらの嗜好品は我慢しようと思えば我慢できるはずです。でも実際は止められない人ばかりですし、国が管理してるでしょ。更に言わせてもらうと、酒とタバコは自分の意志で始める人がほとんどですが、カニバの方々は違うでしょ? 普通にスーパーやコンビニの珍味コーナーで買って食べていたジャーキーに不法な成分が含まれていたのですから、騙されたのと同じです。もっと同情的に手を差し伸べるべきでしょう?」  この手の番組は、どうせいつも答えは出ないのだ。CMに入った時に電源を消した。
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