4章

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「え?、お待たせしました。それでは只今から抽選会を行います」  司会進行を担当している男は、ローカルのテレビ局でアナウンサーをしていた経験のある者らしい。彼は抽選箱に腕を突っ込むと、1枚ずつ札の番号を読み上げていった。複数の札を投じた者の札が2回引かれた場合、2回目を無効とし、もう一度抽選が行われる。  1回戦から5回戦までは、札を1枚しか投じていないザコ同士の戦いだった。選ばれた者たちは頭を抱え、中には涙を流す者もいた。生きて返ってこれるか分からない激戦地に向かう兵隊と同じ心境なのだろう。  6回戦目になってようやく、2階で暮らしているカニバが選ばれた。そしてまた地味な対戦カードが続くのだった。  結局、この程度の確率なのだ。対戦を恐れて劣悪な環境である1階を選ぶくらいなら、5階の方が絶対にいいに決まっている。  58人目まで選ばれた時点で、まだ5階の人間は1人も含まれていない。  59人目で4階の男が選ばれると、どよめきが沸き起こった。男は信じられないくらいの美男子だった。刑務所のアイドル的な存在なのだろうか? 体には惚れ惚れするくらいの筋肉をまとっている。  僕のすぐ隣りにいた男が「あいつと戦う奴、かわいそう」とつぶやいた。 「なんでですか?」僕は聞いた。 「あいつは4階を代表する実力者だ。5階の連中だって、武器がなければ倒せるかどうか分からない」 「・・・・・・そうなんですか」 「では60人目を発表します。番号札10256。10256です。前へお進み下さい」歯切れのいい司会者の声が会話を打ち消した。  青天の霹靂とはこの事だろう。  それはまぎれもなく僕の番号だった。  頭が真っ白になっていた。  ゆっくりと立ち上がると「どうかされましたか?」と司会者が尋ねてきた。 「いいや、なんでもないです・・・・・・」選ばれた60人のカニバたちの輪に、僕は駆け足で入った。  ロメ郎に目を向けると、情けない顔で首を左右に振っていた。久しぶりに再開した友人を失うと思っているのだろうか? 僕は少しだけ腹が立っていた。舐めるなと言いながら、頬を叩いてやりたいくらいに。
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