1.僕のいらいら

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 僕はその時、中学二年の春休みを迎えていた。春休みが終われば中学三年生、高校受験生だ。僕の住んでいる所はとても山深い田舎だった。それでも「高校受験」という世間の常識、社会の荒波からは逃れられない。  僕は両親の希望で町の高校を受験することになっていた。家から通うには遠いから、受かれば寮に入ることになる。その高校は、普通に中学校の勉強に励んでいれば入れるところだ。しかし僕の成績は芳しくなかった。  中学一年の時は、小学生のいかにも幼い制服から、がらりと変わった立て襟の制服、そして専門的な授業形態が珍しく、学校生活はまずまず楽しいものだった。だが二年生になるとそれが惰性に変わってきた。何となく、何をするにも今一つやる気が出なくなってしまった。友達との付き合いも適当になり、遊んでいてもどこか気が抜けている。ましてや勉強に身が入ろうはずもなかった。  将来、何になりたいという志もなく、勉強の大切さもわからなかった。父さんなんて、大学の工学部を出て、勤めているのは村役場だ。母さんだって短大の英文科を出て、全く英語に縁のない田舎の専業主婦をしている。大学まで出て、それが一体何になるのだ?  それでは僕はどうしたいのか? それも特にない。でも何となく、旅に出るのは悪くないと思っていた。ふらふらと風来坊になって、何にも強制されない、そんな気ままな旅人になることが、その時の僕の夢と言えばそう言えたかもしれない。  だが、両親に面と向かって逆らえるほど、その頃の僕は度胸がなかった。両親が行けと言った塾にも渋々通い、他の二十人ほどの生徒達と一緒に、僕が苦手な英語と数学の講習を受けていた。
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