5.僕の引っかかり

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「ねえ、桜子、ちょっと気になることがあるんだ」  約束通り、日曜日に僕は療養所を訪れていた。窓から春の光が柔らかく差し込む中、先程まで僕と桜子は小さな机で向き合って、数学の問題集を開き、果敢に問題に取り組んでいた。  桜子も数学は苦手だったから、二人とも問題に行き詰まって多いに悩んだりするのだが、それでもめげずに二人で考えを出し合って、それが正しくて答えがピッタリ合ったときなど、二人とも歓声を上げて喜んだ。  僕はいまだかつて勉強を、それも大の苦手の数学をこれほど楽しんだことはなかった。桜子の言った通り、気の合う友達との勉強ははかどるものだった。二時間ぐらい勉強した後…この勉強嫌いの僕が、よくもそれほど長く勉強に集中できたものだ…僕は桜子に紅茶を入れてもらい、差し入れに持ってきたクッキーをほお張りながら、桜子に先の言葉を切りだした。 「僕さ、この前からずっと考えてたんだ。桜子が『私、おかしくなるのかしら?』って言ったことを。このいい加減な僕としては珍しく何度もじっくり考えたよ」  それは本当だった。僕は寝ても覚めても桜子を助けたいと思って、彼女が話した一言一句を思い出して、悪い頭をこれ以上ないほど酷使していたのだ。彼女を元気づける方法を日夜考え続けていたのだった。 「そしたら、どうも何か引っかかる気がしてきたんだよな」 「何がなの?」桜子が興味津々に身を乗り出して訊いてきた。
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