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「あいてて、なんだろう、これ」
ポケットに突っ込んだ手に痛みを感じて見てみると、ダークマターが腕に張り付いている。真っ黒、それ以上でも以下でもないただの真っ黒だった。不意に視線を上にあげるとちょうど自転車に乗ったおじさんが私を大げさに避けて通りすぎるところで、いくら私でも異形の腕をしていると察しているわけだけれど、それにしてはなんだか反応が薄いわね。
ひとまずケータイを取り出す。
「えっと、なんだこれ」
?がしてもいいのかな。
薄い青色のメモに、真っ赤なサインペンでこう書いてある――閲覧禁止。私はさほど粘着力の高くない紙切れを道路脇のゴミ捨て場にポイポイ。それでもなお、ケータイの液晶は沈黙を守ったまま。
違うか、ダークマターだ。どんな嫌がらせだろう、宇宙の9割を占める暗黒物質を用いた嫌がらせ。なんの目的があるんだろうねこれ。私は物言わぬただの箱と化したそれを道路上に投げ捨てた。バキ、と、生命の名残じみた声も上げぬまま砕け散って万々歳。
家に、帰ろう。
******
「君の名前は安西(あんざい)あんじゅ」
「あんじゅって、どういう字で書くの?」
「わからない、君が一番知っていることだろう」
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