試読み:手袋

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 そんな思いが正直に顔に浮かんだのだろう、遠藤は少し躊躇うような顔をして慌てて言い繕った。 「ああ、そうは言っても違法なものではありません。人を殺したり、死体を荒らしたりしてはいません。合法的なものです」 「合法的って、そんな、人間の皮が合法になんて……」 「大丈夫なんですよ。間違いなく同意を得られる相手が提供するので」  遠藤が折角締め直したネクタイを緩め、シャツのボタンを外す。 「おい……まさか……」 「そのまさかです」  ネクタイを抜き、シャツを脱いで、くるっと背を向ける。 「ひっ!!」  遠藤の背は目を覆いたくなるような惨たらしい赤で塗りつぶされていた。 「かなりの深さで皮をはぐので皮膚が再生しないのです」 「そ、そんな、自分の背中なんて……」  俺は吐き気を堪える様に手で口を覆う。  なんだかその手を放したら血腥さが匂って来そうなほど生々しい跡だった。 「残酷に思うかもしれませんが、一番きれいに整った状態で革を得るには、生きたまま引き剥がさなくてはならないので」  言葉を失った俺を見て、遠藤はシャツを着なおした。 「人間の革は上等です。なんせ自分から生まれた物を身に着けているのですから、合わないはずがありません。あなたもそれに魅せられたのでしょう?」  遠藤の手には黒い手袋。  あの手袋の下は、BARで見たときは確かに普通の手があったが、今となってはあの手袋こそが遠藤の手の様に思える。 「同好の士にお会いできてよかった。もしご入り用でしたら、これを」  そう言って、すっかり身形を整えた遠藤は名刺を一枚置いて部屋を出て行った。  俺は名刺には目もくれず、力なくベッドに俯せた。 「金持ちの道楽ってのはワケが分からねぇ……」  不意に手袋で頬を撫でられた感触がよみがえり、ゾクッと背を震わせる。  上等な道具。  人革の黒手袋。 「……俺は二度と手袋なんかしねぇぞ」  そう決めると、疲れた体を奮起し、肌に残る薄気味悪い残滓を洗い流すべくシャワールームへと向かった。
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