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遠藤はBARで良く見かける常連客の1人だった。
ぎりぎりオーセンティックバーとしての雰囲気は保っているものの、場末の繁華街にあるゲイのたまり場になっているような店に来るには珍しいタイプの男だ。
まだ30代前半くらいで、いつもオーダーメードのコートに綺麗に磨かれた革靴、着ているスーツも仕立てが良く、如何にも金持ちと言う身形の良さだった。
薄暗いゲイバーより、ハイクラスホテルのラウンジの方がはるかに似合う。
俺はそんな遠藤に興味があった。正直、好みの顔でもある。
いつも一人で飲む彼に、声をかけようと狙っていたことは否めないが、何故かいつも声をかけずに見送っていた。
なのに今夜、店に入ってきた遠藤に声をかけてみようと思い立ったのは、その手にはめられている手袋があまりにも綺麗な黒をしていたからかもしれない。
「いい、手袋ですね」
遠藤は手にぴったりとした黒い革の手袋をしていた。よく見ると少し光沢のある同色の糸で刺繍が入っている。
俺は身形に気を使っているだろう彼が愛用しているらしいその手袋に興味が湧いた。
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