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どうやら、肉体的にも精神的にも疲れ果てていたらしい。コーサクは深い眠りについていた。
眠りから覚めて目を開けると、そこは、タバコの臭いが染みついた休憩室の中だった。
「やっと目を覚ましたわ、アンタ」
「お、よく眠ってたな、お前」
眉毛の濃い、オールバックの男性と、先程彼を助けてくれた団子頭の女性が、にこやかにコーサクを見た。コーサクは不信そうな顔つきで二人を見たが、二人は気にせず笑っている。
「お前もなんかあった奴なんだろ?」
「俺は違う! 冤罪だったんだ!!」
「でも、認めちまったんだろ? お前も」
「お前も……?」
コーサクが疑問符で返すと、男性は笑う。大丈夫、そう言わんばかりに。
「俺の工場……いや、この商店街には、そう言った奴らが沢山いるよ。中には、本物の悪もいるがね。って、お前なら知ってるだろうけどな」
男性は笑いながら、コーサクの切れた口元をつついた。コーサクは痛そうに顔を歪める。
「行く当てが無いんなら、うちで働くと良い。丁度、人手が足りなかったんだ……どうだ?」
「俺なんか、何したって……」
「そう卑屈にならないの。そんなんじゃ、改まって家族に顔向け出来ないわよ」
女性に言われると、家族の顔を思い出した。冷たくあしらわれた妻ショーコ。そして、もう一人。
『私は父さんを信じてる!!』
そう言ってくれた、娘サヨのことを。
「俺が、会えるわけない……」
「そんなことない! ちゃんと生きていれば、きっといつか会えるようになる日が来るわ!!」
女性が、コーサクの手を握って目に訴えかける。男性も、彼を見て、静かに頷いていた。
二人に訴えかけられると、何だかそのような気がしてきた。励まされて少しだけ前向きになれたコーサクは、こくっと頷いた。
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