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「おやっさん、こっちの作業終わったよ!」
一か月が経ち、仕事始めは慣れないことに戸惑っていたコーサクも、もう随分仕事が板についてきた。ちなみに、おやっさんと言うのは、当時コーサクを拾ってくれた男性の呼び名だ。女性の方は、おかみさんと呼んでいる。
「おう、それじゃあ休憩入るか!」
おやっさんの言葉を合図に数人が休憩室へと移動した。
「おや、お疲れ様。みんな疲れたでしょう、茶と和菓子を今持ってくるから、テレビでも見て待ってて」
おかみさんがテレビを付けて茶菓子を取りに行くと、お昼の時間帯と言うこともあり、ニュース番組がやっていた。商店街の暗黙の了解で、極力ニュースは見ないこととしているので、おやっさんがチャンネルを変えようとしたが、ニュースに映し出された字幕に、思わずおやっさんはその手を止めた。
『ここ数か月で起こった痴漢の犯人が、なんと自ら警察に名乗り出てきました。なんと、犯人は、警察が罪のない人間を捕まえて冤罪にする様を楽しんでいる愉快犯だったとされ、冤罪の数は、なんと数十人にも渡ると言われております』
「こいつぁひでぇや」
「……こんな」
ニュースを見たコーサクは、力任せに休憩室の畳を殴った。
「こんな奴の為に、人生を滅茶苦茶にされたなんて」
「お前、この事件の奴だったのか……いや、お前等の中にも、いるんだろうな」
おやっさんが振り返ると、数人の社員が頷いた。
「……行かなくちゃ」
「行くって、まさか警察にか? あいつ等に何言っても通用しねぇと思うぞ」
「いえ、今日、娘の誕生日なんです」
「……そうか」
一つ頷くと、おやっさんはコーサクの背を叩いた。
「行ってこい。んで、素直に伝えてこい。お前らも、帰りたい奴は帰れ。そして伝えてこい、お前らが無実だったってことをな」
コーサクが立ち上がると、影響されるかのように、数人の社員が立ち上がり、全員商店街を出て行った。
「……頑張れよ、みんな」
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