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「お願いします、俺は何もやってない。だから、牢屋に戻してくれ」  コーサクの矛盾する言動に、警察は顔をしかめた。 「おいおい、寝言は寝て言えあんちゃん」 「嘘じゃないんだ。俺は無実だったんだ。でも、アンタ等警察が俺に罪を強要したんだ。だから、改めて無実を訴えさせてくれ、頼む」 「おい、こいつをつまみ出せ」  上の者らしい警察官が命令すると、部下であろう警察官達が敬礼をした後、コーサクを追い出した。  居場所を失くしたコーサクは、途方もなく、商店街の中を歩いていく。幸い、テレビニュースで放送される程の内容では無かったので、此処ら辺の人間はコーサクのことを一切知らない。大通りを堂々歩いても、白い目で見るわけでも無く、はたまた同情して手を差し伸べるでも無く、赤の他人として通り過ぎていった。  人気の無い路地に入り、ふと昔を懐かしむ。昔は良かったな。と。  コーサクは、特別な才能を持ち合わせてはいなかった。とにかく普通の青年で、勉強も運動も平均点、それなりに友達がいて、少しだけ女子からモテる。普通の青春時代を歩んできた。妻ショーコは、学生時代の同級生で、彼に告白した女子の中の一人だった。  ショーコのアプローチは、物語でよくあるような、靴箱に入れた手紙で呼び出して、直接告白する方式だった。途中から隣の席になってから、お互い意識するようになっていた二人。コーサクの答えも、当然イエスだった。  それから二人はデートを重ね、淡い恋だったものを、愛へと変えていった。  プロポーズは、コーサクからだった。言葉は、「結婚しよう」。普通な自分にお似合いの、ありきたりな言葉だったかもしれない。しかし、ショーコが喜んでくれたので、それで良かったと思っている。  二人は結婚し、コーサクは就職。その会社も、今回の冤罪で辞めさせられてしまったが。   そして、サヨが生まれた。思わず、生んだショーコよりも先に泣いてしまったことに、ショーコに叱られたっけ。コーサクは今のことのように思い出し、つい微笑む。  そこへ、数人のガラの悪そうな男達が、コーサクの前にやって来た。 「俺らの場所で何してんだよおっさん」  コーサクが振り返ったと同時、彼の顔に、男の足蹴りが飛んできた。彼が倒れると、男達はケラケラと笑い、暴力に暴力を重ねた。
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