プロローグ

2/2
前へ
/18ページ
次へ
「母さん、今年も手紙が届いたよ」  5月29日は母の誕生日だ。毎年この日には手紙が届くのだが、それはこうして仏壇に置いている。  母が他界して何年もの時が過ぎたが、手紙は欠かさず届くようになっている。差出人はまだ秘密にしておこう。  亡くなった人の誕生日を祝うのはタブーだとも言われているが、かまわない。わたしと父の間ではとても大切な行事なのだ。 「今年はね、手巻き寿司!」  母に教わった料理など一切ないわたしは、普段の料理は父に任せっぱなしだ。父はわりとできる男なのだ。  けれど、この日だけはわたしが必ず台所に立つ。その訳を少しずつ話そうと思う。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加