27歳のあなたへ

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 わたしが呑気にミルクを飲んでいる頃、母は余命宣告を受けた。家族もまさかという事態。同じ場所にがんが出来る局所再発だった。  この頃の話しをふりかえる父は苦手だ。声のかけようなどないのに、その話しを延々とするのだ。心臓をわしづかみとは、よく言ったものだ。 「もう、真っ暗になった。正直、お前を育ててた記憶も残ってないんだよ。父親失格だ」  わたしは、そんな事はないよなんて気休めは言わない。むしろ責めちぎってやった方がいいんだ。涙が枯れるまで泣いた方がいい。 「泣きたいだけ泣きなよ!」  誰に似たのか、こういう前向きさだけはありがたいもので。母親のいない家庭を小馬鹿にされたって、父の手作りのマイバックを笑われたって、強く生きて来られた。
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