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それを聞いて 春臣は無言で歩き出す
この女 名を早乙女 蘭子という
自称 任侠小説家だが その作品が売れたという
話は聞いたことがない
極道の世界に憧れるあまり 取材と称しては
組事務所の周りを彷徨き 煙たがられていた
この日も 名ばかりの取材に行き
組同士の抗争に巻き込まれ どさくさまぎれに
腹に蹴りをくらい 悶絶しながらも
あの場所に辿り着いたのである
しかも 倒れていたのは そればかりではなく
腹が減って動けなかった というのもある
春臣は 自宅である元下宿 本宮荘の玄関に
蘭子を座らせると 奥に向かって声をかけた
「勝子さん すみませんが この女性を
休ませてあげてください 僕は ちょっと
出かけてきます」
そう言うと 蘭子の身を案じるわけでもなく
ダンボール箱を抱えたまま出て行った
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