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「首切らなくていいし、気にしなくていいから。お父さん、気を張りすぎちゃったのよ。だから安心して」
彼女は頷いてお辞儀して奥に向かった。
「先ほどはすみません。おかげ様で目が覚めました」
彼の謝罪を遮るかのように棺さんは言う。
「ごめんなさい。ケーキ……」
「アレが最後よね。いいわ……」
「いえ、ケーキはあります。ケーキ持ってきてますよ、ほら」
私の近くにいつの間にかシェフの娘は来ていた。
そして「おめでとうございます」と彼女はつぶやいた。
「ありがとう」とつい言ってしまった。誕生日は明日なのに。
普通に食べればいいのに、私は心の中で悟った。
(なるほど。このケーキ、見た目は美味しそうだけど、中身が辛いとか爆発するとかか。いや、安らかに眠れという感じで薬を入れられたかも。待て待て。今頃気づいたけど私、シェフや娘にも恨みを?童話に出てくる眠り姫をこの人たちは期待しているとか?怖いわ……あっ……)
私のお腹は正直に鳴り出した。
「お嬢様、どうぞ召し上がって下さい」
棺さんの言葉に私はケーキをフォークで刺して食べる。切れているから取りやすい。しかも美味だ。
涙や頬がこぼれ落ちてしまいそうだ。
そんな私を見て棺さんは言う。
「お嬢様、いかがです?」
「美味しいわよ」
「いえ、誕生日です」
「その事なんだけど、誕生日は明日よ?」
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