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トラウマ
艶々の黒髪を後ろに束ね、化粧っ気のない素顔で、子供の頃からほとんど顔の印象が変わらず、何年経っても年を取らない道木 平成子は、俺の少年時代のトラウマだった。
前髪を眉丈に切り揃え、髪は肩甲骨の辺りまで伸ばすセミロング。
目はぱっちりとしていて、鼻筋も通っているが、丸顔の小顔の性か童顔で、30を過ぎても少女と見間違える容姿をしていた。
「あ、起きたんだ。コーヒーと水だったら、どっちが良い?」
見知らぬ部屋のベッドで朝目が覚めて、昨夜の記憶を遡りながら、全裸で上半身を起こすと目の前で、平成子はそっと顔を背ける。
「み、水で良い」
「うん。分かった……。貴方って寝る時全裸なの?」
平成子の言葉に、醜態を恥じる。
俺は、全裸で寝る習慣はない。
なのに、全裸で朧気にある記憶の中で、その記憶が間違いでなければ。
俺は昨夜(ゆうべ)、平成子を抱いている。
「鍵あったよ。昨日飲んだって言ってた飲み屋に行ったら、お店は閉まってたけど、店の前の道路の脇に落ちてたから」
平成子はくすりと微笑んで、鍵を俺に翳して見せた。
「それだ」
「良かったね。お風呂入って来なよ。酔い覚ましには、お水とお風呂が良いよ」
そう言って、平成子は寝室を出て行った。
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