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黒川晃(40)
がしゃーーーん!
大げさな音をたてて、ガラスのコップが盛大に割れた。
テーブルの上の新聞を取ろうとして手を伸ばしたところ、端に置いてあったコップにほんの少し触れてしまっただけなのだが。
ちっ。
心の中で舌打ちする。
何でこんなテーブルの際に置いてあるんだよ。
確か、このコップ、茜が一番気に入っていたはずだ。
「あーっ!私の…」
案の定、背後から茜の声が飛んできた。
長い睫毛に縁取られた大きな目に、悲しげな色を浮かべ、俺とコップを交互に見比べている。
大げさなんだよ、いちいち。
可愛らしい顔と裏腹に、うるさい女だ。
俺はどちらかと言うと、地味で穏やかな女が好きだったはずなのに、どうしてこいつと結婚したんだろうと思う。
「落としちゃったの?」
「うん」
俺は、自分の正当性を示すため、涼しい顔で頷いた。
「これ、私のお気に入りのコップ…」
「知ってる」
「悲しい」
「こんなところに置いてるから悪いんだろ?」
「…何か言う事ないの?」
「謝れって言いたいの?」
茜が驚いたように目を丸くして、それから眉を寄せ、険しい表情で俺を睨みつけた。
一気に、不穏な空気が俺たち二人を包みこむ。
「どーじょ!」
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