黒川晃(40)

4/15
前へ
/17ページ
次へ
コスプレ男女は音もなく地面に降り立つと、まるで俺の心の声が聞こえたかのように、オーバーに手を挙げて見せた。 「あの。急いでるんで」 「えぇ、心得ております。ですから少しの間、時間から切り離させて頂きました。」 そこで初めて気がついた。 誰もいない。 さっきまで何人もいた、駅へ向かう顔なじみのサラリーマンやOLの姿も、ゴミを狙うカラスも、そして道路を行き交う車も、何もなかった。 「どーなってんだ…?」 「ご心配なく。すぐ元に戻しますから」 コスプレ男女はそういってニッコリ微笑むと、優雅に頭を下げた。 「改めまして、おはようございます。 わたくし、天使でございます。 本日は、神の御心により、あなたに奇跡を届けに参りました」 「…はぁ?」 「黒川晃さま、ですね」 なんでこいつ、俺の名前を知ってるんだ? 神だ天使だと、とても正気とは思えない。 かと言って下手に抵抗すると、こうゆうタイプは何をするか分からない。 どうしたもんか。 「どうもしなくて良いですよ。 さて、黒川さま。 今朝は随分と汚らしい心の声を聞かせて頂きました。 ずばりあなた…! 奥様との関係に悩んでらっしゃいますね」 「何だよ、急に」 「どうです?」 「答える筋合いはない」 俺の回答に、天使(本人がそう言ってるので、一応)は肩をすくめた。 「夫婦喧嘩は犬も食わない、という諺がございます」     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加