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コスプレ男女は音もなく地面に降り立つと、まるで俺の心の声が聞こえたかのように、オーバーに手を挙げて見せた。
「あの。急いでるんで」
「えぇ、心得ております。ですから少しの間、時間から切り離させて頂きました。」
そこで初めて気がついた。
誰もいない。
さっきまで何人もいた、駅へ向かう顔なじみのサラリーマンやOLの姿も、ゴミを狙うカラスも、そして道路を行き交う車も、何もなかった。
「どーなってんだ…?」
「ご心配なく。すぐ元に戻しますから」
コスプレ男女はそういってニッコリ微笑むと、優雅に頭を下げた。
「改めまして、おはようございます。
わたくし、天使でございます。
本日は、神の御心により、あなたに奇跡を届けに参りました」
「…はぁ?」
「黒川晃さま、ですね」
なんでこいつ、俺の名前を知ってるんだ?
神だ天使だと、とても正気とは思えない。
かと言って下手に抵抗すると、こうゆうタイプは何をするか分からない。
どうしたもんか。
「どうもしなくて良いですよ。
さて、黒川さま。
今朝は随分と汚らしい心の声を聞かせて頂きました。
ずばりあなた…!
奥様との関係に悩んでらっしゃいますね」
「何だよ、急に」
「どうです?」
「答える筋合いはない」
俺の回答に、天使(本人がそう言ってるので、一応)は肩をすくめた。
「夫婦喧嘩は犬も食わない、という諺がございます」
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